5月2016

MONSTER-中古本屋さん立ち読み日記-

MONSTERってどんな漫画?

ドイツのアイスラー記念病院に 勤めているDr.テンマ。彼はあるときその天才的な外科手術の腕で著名なオペラ歌手を救う。「さすがDr.テンマだ」「これで病院の名声も上がる」と周囲 に褒め称えられる中、Drテンマに詰め寄る婦人がいた。「ウチの人を返してよ!」そう詰め寄る婦人は先日救ったオペラ歌手と同時刻に病院に運ばれてきた男 性の奥さんだった。「ウチの人のほうが、あんなオペラ歌手なんかより早く運ばれたんだ!なのにどうして……」婦人の言葉に返す言葉が見つからないテンマ。 それまで自分の実力が、たとえ政治利用されていても気にしていなかったテンマだったが、その事件をきっかけに彼の中にある疑問が生まれる。「命は平等では なかったか?」。悩み苦しむテンマはフィアンセである恩師の娘に相談するが「あなたがしたことは正しいのよ。だって命は平等じゃないんだから」と言われ、 テンマの中で何かが崩れてしまう。そんな中アイスラー記念病院に再び二名の急患が運ばれてくる。先に運ばれてきたのは名も知らない少年、もう一人は政治力 をもったこの町の市長だった。どちらの命を救うか選択を迫られる中、テンマは自らの正義を押し通し、少年の命を救う決意をする。その少年が「モンスター」 であることも知らずに……

MONSTERのコミックを読んでみて

数々の名作を世に送り出している浦沢直樹さんの作品の中でも一番好きな作品です。

医者であるテンマが自分の信念は正しいと信じ、「命は平等であるべき」という意思のもとに救った少年が、実は凶悪な「殺人鬼」であった。
という、なんとも皮肉な展開で物語が始まります。
「果たして自分がしたことは正しい行いだったのか?」とテンマは自身に問い続けながら悩み苦しみますが、そんな彼をあざ笑うかのように次々に不可解な殺人 事件が起き、その全てに彼が救ったあの少年の存在が見え隠れし、テンマはやがて自分が救った少年を「殺す」という決意をします。
医者という「本来命を救う側の立場にある人間」であり、しかも「自らの正義を信じて救った命」を「自らの手で絶つ」という決断はどれだけの覚悟が要るのでしょうか?
物語を読み進めていくうちに、いつのまにか彼の葛藤に飲み込まれていき、自分だったら……と重ね合わせてしまいます。

特に印象的なシーンで頭に焼き付いているのが、物語の中盤でその少年(物語の中ではもう青年になっているのですが)を追い詰める場面で、そこで追い詰められた彼はまったく動じず、逆に「ちゃんと狙って撃て」とでも言わんばかりに「自らの額に指をさす」ところです。
「お前にできるのか?」「それは正しいことなのか?」ということを、長々とした説明なし、たった一枚の絵でその覚悟を問われるシーンです。
テンマが彼の問いにどう答えたのかは……是非読んでみてほしい!

そのほかにもさすが浦沢直樹さんといったところで、「命とは?」という主題のほかにも様々なキャラクターによるドラマを盛り込むことで、たくさんの副題を示して、物語を厚みのあるものにしてくれています。
この物語の中で浦沢さんの描くキャラクターは、並外れた才能を持つ人間というのはいるものの、誰一人完璧な人間はいません。
どんなキャラクターもひとりひとり、様々な葛藤を持っています。
その葛藤が人との関わりや個人の成長によって解決していくのは読んでいて楽しく、もちろん暗い部分もありますが、最終的には人間っていいなと思わせてくれます。
なにより、そうした小さな物語の一つ一つが、主人公であるテンマの成長を促したり、物語を読み進める上で重要なキーとなって、主題を盛り上げてくれているのがたまらないです。

もちろんテンマが命を救った少年にも主眼がおかれていて、どうして彼が凶悪な殺人鬼になったのか、「モンスター」はどうして生まれたのが次第に語られていきます。
「モンスター」の過去を追っていく中で上でテンマが最終的にどうするのか、最後まで目が離せなくなるでしょう。
時間を忘れて一気に読んでしまいたくなる、というより読んでしまう、そんな作品です。